2003年に滋賀県の湖東記念病院で患者の人口呼吸器を外し殺害したとしたとして、12年間服役した西山美香さんの再審請求に最高裁第二小法廷は「再審開始」を決定した。西山さんの捜査段階での自白は変転するなかで、結局、人口呼吸器を外したとの自白が根拠となり、2005年11月一審の大津地裁では懲役12年が言い渡され2007年に最高裁で確定した。
私は交通事故や労災事故の調査鑑定を行っている関係で「自白だけでの有罪」に興味を持ちこの湖東記念病院事件も注目していた。事故鑑定での事故現象とはその事故で生成された痕跡などから事故の成り立ちを解明するのである。つまり、その事故でしか生成されない形がその事故を物語るのであり、その視点から人の供述をみるなら極めて危ういため依存したり根拠にすることはあってはならない。したがって、事故鑑定では客観的な事実が最優先であり事故についての説明などは極力重視しない。
ところで、この湖東記念病院事件では、西山さんが捜査官に好意を抱いてうそ自白したと考えられるが、警察は犯罪の捜査や逮捕権という権力を持ち一般市民とは対等な関係ではない。また、私たち大部分は警察に敬意を払っている。このような対人関係は非対称である場面では、勢力が下位の者(供述者)は上位者(尋問者)の影響を受ける傾向にある。この社会的位置の違いが供述に反映される。また、取り調べる警察官は犯人であるとのシナリオで質問するのであり、その巧みな話術や供述者の心理を見通しての尋問に一般市民は対抗できない。
以上から、事故鑑定ではだれもが否定できない客観的事実を裁判官、原告(検察)、被告のトライアングルに共通情報として示す。この湖東記念病院事件は再審が始まりおそらく「無罪」の判決が示されるであろうが、自白だけでその罪を争うような刑事裁判は極めて危ないと指摘する。